進撃の巨人 白夜を深く読んでみる(現代文の偏差値28)
こんにちは。
今日は僕の大好きな漫画『進撃の巨人』の第84話、「白夜」を読んでみようと思います。
この「白夜」は僕が進撃の巨人の中で一番好きなエピソードです。
瀕死のエルヴィンとアルミン、巨人化の注射薬をどちらに使用して生き返らせるか?といった内容です。
思い出しましたか?
僕が進撃の巨人を好きな理由の1つとして、
・それぞれのキャラクターの持つ思想/行動原理に芯があり行動に納得感がある事
というのがあります。
「白夜」はその特徴を最大限生かしたストーリーが展開されます。
おおまかなストーリーの流れは、瀕死のアルミンとエルヴィンどちらを生き返らせるのか、リヴァイが決断するのかといったものです。
もっと正確に言えば、「エルヴィンを生き返らせる」と決めていたリヴァイが、アルミンを生き返らせる選択をとるに至った経緯を丁寧に描いたストーリーだと考えてます。
「この注射はエルヴィンに打つ」
フロックが瀕死のエルヴィンを背負って連れてきてすぐ、リヴァイはエレンに対して言い放ちます。
何故なら「アルミンよりもエルヴィンの方が巨人に勝てる、人類を救える」と考えたからです。
合理的に考えるのであれば、この局面で議論するポイントは、どちらが人類を救えるかといった”人類の利益”のみであり、その他の材料は全てノイズです。
実際「エルヴィンの方が人類を生かせるので、エルヴィンを生き返らせる」と主張するリヴァイに対して、論点がずれた主張をするエレンは殴り飛ばされます。
リヴァイに殴り飛ばされたエレンは根拠をもって、論点に沿って「アルミンの方が人類を活かすことができる」と主張をします。
「人類を救うのはオレでも団長でもない!!アルミンだ!!」
そのエレンに対して、今後は”人類の利益”のため必要なのはエルヴィンだ。とフロックが反論。
また、ハンジも続いて同様の内容をミカサ、エレンに訴えかけます。
その場に居合わせているジャンとコニーに関しては沈黙。
心ではエレンと同様にアルミンを生き返らせたいと考えているが、頭では人類の勝利のためエルヴィンを生き返らせるべきだと考えているためです。
合理的な判断ができるハンジ・フロックサイドのポジションをとっています。
フロックとハンジの演説によってミカサは「人類を救えるのはアルミンではなく、エルヴィン」であると認め、”人類の利益”を尊重し、アルミンを生き返らせる事を諦めます。
そもそもこの議論、ミカサとエレンの二人は”人類の利益”という論点で考えた場合に、エルヴィンの方が人類救えるかもしれないという事実を理解したうえで、アルミンを救うといった絶対的に譲れないポジションをもってディベートをさせられていたようにも見えます。
先ほどエレンも「人類を救うのはオレでも団長でもない!!アルミンだ!!」と言っていましたが、100%心からそう考えているのではなく、リヴァイの提示した論点に沿って反論をするために、ひねり出したといった方が自然に見えます。(エレンは本当にそう思ってるかもしれませんが)
「兵長... 海って知ってますか?」
”どちらが人類を救えるか”の答えがエルヴィンであると決まってしまい、その答えがどちらを生き返らせるかといった答えに直結している局面を打破するべく、エレンはリヴァイに投げかけます。
ここからはどちらが人類を救えるかといった議論ではありません。”人類の利益”を完全に度外視した意思の話です。
そして、ここ指している意思は、エレン、リヴァイ、他メンバーの「どちらを生き返らせたいのか?」といったものではなく、アルミンとエルヴィンがそれぞれ生きたいのか、生きたくないのかといったものになります。
リヴァイはエレンから受けた問いに対して、過去の自分の記憶を基にアルミン、エルヴィンそれぞれに答えを求めます。
ここからは僕の意見がさらに強まります。
アルミンは「海を見たい」、エルヴィンは「世界の謎を解き明かしたい(地下室に行きたい)」といった夢をそれぞれ幼い頃から持っています。
そしてそれぞれの夢が二人の生き方に作用しているのですが、その作用の仕方が異なります。
アルミンは「純粋に夢をかなえたい」
エルヴィンは「生きるための拠り所を夢に置いている」といったところでしょうか。
「みんな何かに酔っぱらってねえとやってられなかったんだな...」
「この人には まだ地獄が必要なんじゃないかって...」
(この左部分のはっとしたリヴァイの表情最高ですよね。エルヴィンを生き返らせると決めていたリヴァイがフロックの”地獄”というワードを聞き、「本当にいいのか...?」と考え始める瞬間がさりげなく表現されています。このシーン、エレンが「海って知ってますか?」と問いかける前のシーンであり、実はエレンではなく、フロックの発言からリヴァイの葛藤は始まっているのです。見落としがちですが、こんな細かいところまで描写しているのすごすぎます)
エルヴィンはこの残酷な世界で調査兵団団長として
仲間を殺す決断を行う等、多方面から寄せらせる重圧に応えるために必死で彼にとってこの世界は"地獄"であったでしょう。
その地獄を生き抜くために、”地下室に行きたい”という夢に酔っぱらっていないとやってられなかったのです。
エルヴィンも子供の頃はアルミンのようにピュアな気持ちで「世界の謎を解き明かしたい」と考えていたのでしょう。ただ、現在エルヴィンは夢を叶えることを恐れてます。
なぜなら地獄を生き抜くための心の拠り所となっている夢を叶えてしまったら、仲間に報いなくてはならないのに、その後今まで同様の働きができないからです。
実際に「手を伸ばせば届く所に答えがある。だが...見えるか?俺たちの仲間が...」と語っています。
「リヴァイ... ありがとう」
「夢をあきらめて死んでくれ」とリヴァイに言われた時の返答です。
ずっと地獄を生きていて限界をすでに迎えていたエルヴィンは、自分の感情を理解した上で、自分のために「死んでくれ」と自らを押し殺し、とても優しい言葉を投げかけてくれたリヴァイに心から感謝をしたのでしょう。
このシーンからもエルヴィンが少なくとも生きることがつらいと考えていたことは読み取ることができます。
海を見たい!エレンたちと今後も幸せな暮らしをしていきたい!と考えているアルミンと、この地獄を耐え抜くために夢を心の拠り所にしていて、夢を叶えたくないとまで考えているエルヴィン、どちらを生き返らせるのかは”感情”で考えた場合、軍配はアルミンに上がります。
”人類の利益”のためにはエルヴィン、”意思”では、アルミンを生き返らせるという結論になりますが、リヴァイは結論アルミンを生き返らせます。
なぜ”人類の利益”ではなく、”意思”を優先したのか。それはリヴァイという人間に理由があります。注射器を持っているのがハンジや、ジャンなどの合理的な判断を下す人間であれば”意思”を踏まえた上でも、エルヴィンを生き返らせたと思います。
ただ、リヴァイは違います。リヴァイは進撃の巨人内で一貫して、「その場で何が正しいのかなんて分からないのだから、合理的に考えるのではなく、納得のできる方を選ぶべきである」といった考えを持っており、個人の意思を尊重する人間として描かれています。
「悔いが残らない方を自分で選べ」
上記は女型の巨人に襲われ、仲間が次々と殺されていく中、調査兵団の作戦を継続するか、もしくは巨人化して女型の巨人と戦闘するか葛藤するエレンにかけたセリフです。
先ほど述べたとおり、正しい選択肢なんて分からないんだから、悔いが残らない方、自分が納得できる選択肢をとれ。といったスタンスです。
ずっとリヴァイはそうです。このシーン以外にも他の調査兵団メンバーの選択には、どんなものであっても一切口出しをせず、後押しをします。
ここではアニメ化がまだされていないため記載しませんが、131話「自由の翼」では、更に色濃くそのリヴァイの人間性が現れるシーンがあります。僕はそのシーンが狂おしいほど好きです。
そんなリヴァイだからこそ、合理的に考え、エルヴィンを生き返らせる選択をとるのではなく、自分の行動原理に則り、エルヴィンを意思を尊重した決断したのでしょう。
そもそも”人類の利益”なんて合理性を盾にして、エルヴィンを生き返らせようとしていたこと自体が、リヴァイ自身が私情に流されてる判断だとも考えられます。
そもそもこのエピソード自体、「リヴァイの決断」として語られる事がほとんどですが、決断というよりはエルヴィンの意思を尊重して、後押しをした。という方がしっくりきますよね。
「白夜」についてはアニメではSeason3 55話に対応してます。
声優さんの演技、間の取り方、静寂、BGM、すべてが完璧でこのエピソードのクオリティを底上げしてるので是非見てほしいです。
クライマックスで流れるBGMThanksATについてはパブロフの犬で聞いただけで泣いちゃいます。
SymphonicSuite [AoT] Part2-6th:ThanksAT - YouTube
おまけ①
進撃の巨人の世界の法則として、「自分の行いが自らに返ってくる、責任を取らせる」といったものがあります。
コードギアスに「撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけだ。」といったセリフがありますが、進撃の巨人の世界では「撃ってもいいが撃ったら必ず撃ち返される」といった感じでしょうか。
・ベルトルトとライナーに対して裏切者がと叫んでいた104期生が、今度は他調査兵団メンバーに裏切者として扱われる
・ベルトルトを殺したアルミンの「これが君の見た景色なんだね。ベルトルト....」
・リヴァイとハンジから拷問を受けるサネス
他にも色々あるので、意識しながら読んでみると面白いと思います。
この「白夜」でもベルトルトがアルミンに食われるシーンは、アニ・ベルトルト・ライナーが無垢の巨人にマルコを食わせたシーンの対比として描かれており、ここでもベルトルトに責任を取らせています。
こうゆう対比のシーンを意識しながらもう一周してい見るのも楽しいですね。僕もします、疲れたのでまだ書きたかったことあるけど終わり!!!!!